Prime avoidanceについて(2)
前回の続きでPrime avoidanceの話です. この記事の便宜のため, 次のような定義をしますが一般的な用語ではもう全くないです.
この定義を用いると元々のPrime avoidanceは次の二つの命題に分けることができます.
[命題2の証明] 対偶を $r$ についての帰納法で示す. $r=0$ のときは $I$ が $n$-avoidableであることの定義からわかる. $r>0$ とする. $P_{n+r}$ は他のどの $P_i$ も含まないとしてよい. もし $I\not\subset P_i$ $(\forall i)$ となるなら $P_{n+r}$ が素イデアルであることから $a\in IP_1\cdots P_{n+r-1}\setminus P_{n+r}$ がとれる. また帰納法の仮定から $b\in I\setminus (P_1\cup\cdots P_{n+r-1})$ が存在する. $b\not\in P_{n+r}$ なら $I\not\subset \bigcup_i P_i$ となるのでよい. よって $b\in P_{n+r}$ とすると, $a+b\not\in P_i$ $(\forall i)$ であるから, $I\not\subset \bigcup_i P_i$ が従う.□
命題3は実は前回の定理3を使って示すことができます. まずは前回の定理3を次のように書き直します.
[命題3の証明] $\mu_1=0,\mu_2=1$ とすると $\mu_1-\mu_2=1\in R^\times$ である. よって定理4より, $R$ の任意の高々 $2$ 元生成イデアルは $2$-avoidableである. 命題3はこのことと次の補題から従う.□
(1) $R$ の任意のイデアルは $n$-avoidable,
(2) $R$ の任意の高々 $n$ 元生成イデアルは $n$-avoidable.
[補題5の証明] (1)$\implies$(2): 明らか. (2)$\implies$(1): $R$ のイデアル $I,P_1,\dots,P_n$ が $I\not\subset P_i$ $(\forall i)$ を満たすとする. 各 $i$ について $a_i\in I\setminus P_i$ をとる. $J=(a_1,\dots,a_n)$ とおくと $J$ は高々 $n$ 元生成イデアルであり, $J\subset I$ である. 仮定から $J$ は $n$-avoidableであり, $J\not\subset P_i$ $(\forall i)$ だから, $J\not\subset \bigcup_i P_i$ である. よって $I\not\subset \bigcup P_i$ となるから $I$ は $n$-avoidableである.□
前回は $3$-avoidableでないイデアルの例を素環が $\mathbb{Z}$ または $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ のときに作りました. 定理4と補題5を合せると 環 $R$ が 位数 $7$ 以上の体を含むときは 任意のイデアルが $3$-avoidableとなるようです. 標数 $3$ または $5$ で $3$-avoidableではないイデアルがあるかどうかはわかりませんでした.
Prime avoidanceについて
Prime avoidanceについてのメモ
Prime avoidanceという定理(補題?)はネーター局所環の巴系の存在を示すときに使ったり他いろいろ重宝します. ここでのPrimeは素イデアルなのですが, ただのイデアルじゃダメなんですか?と思ったわけです. 今回ダメな例を見つけたのでメモとして残します.
まずはPrime avoidanceの主張を書きます.
上の定理において $P_i$ のうち2つまでは素イデアルでなくても成り立ちます. このことは松村 [1] の演習問題【1.6】にもなっています.
では素イデアルでないものが3つの場合を考えます. すると次の例があります.
$\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ で置き換えてもよいです.
成り立つ方向ではどうか
ここからはおまけ. 実は次が成り立ちます. 証明は[2, Lemma13.2]を参考にしました.
[証明] $b_k=a_1+\mu_ka_2+\mu_k^2a_3+\cdots+\mu_k^{r-1}a_r$ とおく. また $b_0=a_r$ とおく. $b_k\in I\subset \bigcup_i P_i$ である. $l+(r-1)>(r-1)n$ なので鳩ノ巣原理より, ある $j$ に対し, $k_1,\dots,k_r$ が存在し, $b_{k_1},\dots,b_{k_r}\in P_j$ となる. まず $k_i>0$ $(\forall i)$ とする. ここでVandermonde行列
$A=\left( \begin{array}{cccc}1 & \mu_{k_1} & \dots & \mu_{k_1}^{r-1}\\1 & \mu_{k_2} & \dots & \mu_{k_2}^{r-1}\\\vdots & \vdots & & \vdots\\1 & \mu_{k_r} & \dots & \mu_{k_r}^{r-1}\end{array}\right)$
を考えると, $\det A=\prod_{i<j}(\mu_{k_j}-\mu_{k_i})\in R^\times$ だから, $A$ は可逆である. よって, $A(a_1,\dots,a_r)^T=(b_{k_1},\dots,b_{k_r})^T$ であることより, $b_{k_1},\dots,b_{k_r}$ も $I$ の生成系である. すると $b_{k_1},\dots,b_{k_r}\in P_j$ なので, $I\subset P_j$ である. $k_1,\dots,k_r$ の中に $0$ が現れるときは $k_1=0$ としてよい. すると行列
$A'=\left( \begin{array}{cccc}0 & \dots & 0 & 1\\1 & \mu_{k_2} & \dots & \mu_{k_2}^{r-1}\\\vdots & \vdots & & \vdots\\1 & \mu_{k_r} & \dots & \mu_{k_r}^{r-1}\end{array}\right)$
は先程と同様に可逆なので $b_{k_1},\dots,b_{k_n}$ が $I$ の生成系である. ゆえに $I\subset P_j$ となる.□
定理が適用できる場合を考えます. たとえば $R$ が体 $K$ を含むとき, あるいは $R$ が局所環で剰余体が $K$ のとき, $|K|$ 個の元 $\mu_\lambda$ で $\mu_\lambda-\mu_{\lambda'}\in R^\times$ となるものが存在します(こう書くことを許してください). よって $|K|+1>(r-1)n$ なら $r$ 元生成のイデアル $I$ と $n$ 個のイデアル $P_1,\dots,P_n$ に対し, avoidanceができるわけです.
参考文献
[1] 松村英之, 復刊 可換環論, 共立出版, 2000.
[2]G. L. Leuschke and R. Wiegand, Cohen-Macaulay Representations. Mathematical
Surveys and Monographs 181, American Mathematica Society 2012.